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About Aicardi

1)概要

a.定義
 脳梁欠損、網脈絡膜裂孔、点頭てんかん(乳児期のスパズム発作)を三主徴とする多発奇形症候群である。ただし、点頭てんかんは         他のてんかん発作でも代替可能であり、必須ではない。脳梁欠損の他に、大脳皮質形成異常が頭部MRIで認められる。

b.疫学
 発生率は約1/10万出生で、世界ではこれまでに450 例以上の報告がある。2010年に行われた本邦の調査では、患者数は100名前後 と推測された。女児に多いが、男児例も報告されている。1姉妹を除き、家族性の発症はない。

c.病因・病態
 原因は解明されていない。患者の大部分が女児であることから、X染色体優性遺伝(男児では致死性)、もしくは常染色体上の限性発現遺伝子の異常が想定されているが、原因遺伝子の同定には至っていない。均衡型転座症例46,X,t(X;3)(p22;q12) が報告されている。

d.症状
 スパズム発作が最も特徴的である。他の発作型として、焦点性運動発作の頻度が高く、スパズム発作の発症に前後して乳児早期に認 められる。脳形成異常に伴い乳児期には発達遅滞を呈し、その後、知的障害と運動障害が目立ってくる。
多くの症例が重度の神経後遺症を示すが、軽症例も存在し、重症度には幅がある。
眼症状として、網脈絡膜裂孔がみられる。両側性が多く、円形で黄白色の大小複数の病変が視神経乳頭や黄斑部の周辺に存在する。視神経乳頭の部分欠損による拡大が約半数に認められる。小眼球の頻度も高く、両者とも片側性が多い。
約30%が片側性の視覚障害を伴う。
骨格異常として、肋骨と脊椎の異常が多い。肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などを呈する。四肢や頭蓋は基本的に正常である。
他に口唇口蓋裂や腫瘍性病変の合併の報告もある。

e.治療、ケア
 根本的な治療はなく、対症療法である。てんかん発作は難治で、約70%では毎日発作がみられる。抗痙攣薬内服や、ACTH療法の適応となる。また便秘、胃食道逆流、誤嚥性肺炎、摂食障害の対応を要する。

f.食事・栄養
 身体機能に応じた食形態を選択する必要がある。重度の摂食障害があれば、経管栄養なども考慮する。

g.予後
 原則として症状の進行はないが、機能予後は多様である。神経学的には、歩行可能例は10-20%、有意語表出例は10%前後である。合 併症による影響を受ける。

 

2)診断

①診断基準(Aicardi J,2005)
 表にAicardiにより提案された診断基準を示す。出現頻度もしくは診断的意義によって主要徴候と支持徴候に区分されている。網脈絡膜裂孔以外の所見は必ずしも全例に認められるわけではない。

 

  主要徴

  スパズム発作a

  網脈絡膜裂孔b

  視神経乳頭・視神経の欠損

  脳梁欠損(完全/部分)

  皮質形成異常(大部分は多小脳回)b

  脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質b

  頭蓋内嚢胞(多分上衣性)半球間もしくは第三脳室周囲

  脈絡叢乳頭腫

  支持徴候

 

  椎骨と肋骨の異常

  小眼球またはほかの眼異常

  左右非同期性‘split brain’脳波 (解離性サプレッション・バースト波形)

  全体的に形態が非対称な大脳半球

    a 他の発作型(通常は焦点性)でも代替可能
    b 全例に存在(もしくはおそらく存在)
 
○診断参考所見


 スパズム発作がみられるが、脳波ではヒプスアリスミアの併発は18%と低い。脳波の特徴は左右の非対称性もしくは非同期性である。非対称性のサプレッション・バーストもしくは類似波形が多い。脳波も発作も、他の基礎疾患に比べると年齢による変遷は少ない。
頭部MRIでは脳梁欠損に加え大脳皮質の非対称性が特徴的であり、古典型滑脳症にみられる左右対称性とは所見が異なる。頭蓋内の嚢胞形成も頻度が高く、約半数で半球間裂や脈絡叢に嚢胞が認められる。脈絡叢乳頭腫の併発例も複数報告されており、脈絡叢嚢胞との鑑別が必要である。後頭蓋窩病変の頻度も比較的高く、後小脳槽・大槽の拡大を認める。

 

3)治療 治療指針

 根本治療は確立しておらず、診療指針や治療管理法も確立していない。病状に応じた対症療法が中心となる。
 

4)鑑別診断

 胎内感染症(TORCH症候群):皮質形成異常の他に脳の石灰化と大脳白質障害を伴うことが多い。脳梁欠損はまれである。
線状皮膚欠損を伴う小眼球症(MLS):患者は女性のみであり、35%に脳梁欠損を伴う。小眼球の他に角膜混濁等の前眼部病変が多く、上半身、特に頭頸部の皮膚病変が特異的である。Xq22欠失、HCCS、COX7B、NDUFB11変異を認める。
Goltz症候群:患者の90%は女性であり、部分的皮膚低形成と四肢骨格異常を特徴とし、約40%にコロボーマや小眼球などの眼病変を伴う。PORCN変異が認められる。
チューブリン病:細胞内小器官である微小管を構成するチューブリンをコードするTUBA8, TUBB2B, TUBB3, TUBB, TUBGCP4などの変異によって、多小脳回、小頭症等の脳形成異常と外眼筋麻痺や網脈絡膜症などの眼病変を併発する。

 

5)最近のトピックス

 上述のMLS、Goltz症候群、チューブリン病などの類似疾患で原因遺伝子が同定されており、鑑別診断には臨床徴候とともに遺伝子解析が有用である。
 

   

 難病情報センター記述よりhttp://www.nanbyou.or.jp/entry/883

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